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栗鼠たんが朝更新にしてくれたので、更新待ちの時間が増えました。 ~Erwachen 第六話 『奇襲』~ その夜、碧は眠ることができなかった。 ――『私達』がなんとかするから―― 『彼女』は確かにそう言った。 しかし『私達』とは誰のことなのだろう? 『彼女』は単独ではないのだろうか。もしやカスケードと――? いやそれはあり得ない。『彼女』はアイツを敵だと明言したのだから。 少年の中で、疑問が交錯する。 寝苦しい夏の宵、痛みをこらえながら寝がえりを繰り返していた。 そんな折だった。 「碧、ちょっといいかな?」 ふいに少女の声を聞いて、少年は飛び起きた。 『彼女』だと分かっていても、真夜中の女性の来客には動揺するものだ。 「えーと、ナコちゃん、寝ていたんじゃなかったの?」 絞り出す声も震えている。 「少し寝付けなかったの。それに、碧に謝らなきゃいけないと思って。」 少女の声は穏やかなものだった。その声を聞いて、碧は不思議に思う。 『彼女』にしては、柔らかで初々しい口調だった。 どちらかと言えば――『ナコ』に近い。 「いいよ入って。外だといろいろ危ないから。」 今は魔物が跋扈する遺跡の中だ。女の子を一人でおくわけにはいかない。 少女はそっとテントの中に入ってくる。 「ごめんなさいね、こんな夜中なのに。眠っていたのでしょう?」 ナコはぺこりと頭を下げた。 「私のせいでこんな大怪我を……本当にごめんなさい。」 少女は俯き、そっと碧の腕に触れる。 包帯を巻かれたその箇所に、じんわりと痛みが広がった。 「でももう大丈夫よ、私ちゃんと元気だから。 だからもう無理はしないで、ね?」 そう言ってにっこりとほほ笑む。 「じゃあもう帰るね。碧はくれぐれも無茶しちゃ駄目だよ?」 少女は軽くウィンクすると、そのままテントを出て行った。 碧は何も言うことのできないまま、茫然と少女を見送る。 自分に対して素直に謝るナコ。 自分に対して労りの言葉をかけるナコ。 自分に対して本気で心配するナコ。 少年は未だかつて、こんな『ナコ』にお目にかかった事がなかった。 ――あの子は一体『誰』なんだ!? 碧は不自由な片目を瞬きさせながら、我が目を疑った。 ★★★ 次の日、碧は『ナコ』の異変をオウミとハーミットに打ち明けた。 ハーミットは「また別の人格が出てきたのでは」と歯牙にもかけなかったが、 オウミは真剣に唸っていた。彼もそんな聖女のようなナコにお目にかかった事がない。 「……碧君、『彼女』と間違えたんじゃないのかい?」 「間違える筈ないでしょう!?あんな異様なモノ!!」 淑やかなナコを異様と表現するあたり、 恋とは盲目なものだとオウミは思ったが、あえてそれは口にしなかった。 丁度その時、話題の少女が近くを通りかかる。 「ナコさん、昨日碧君の所へ行きましたか?」 反射的に敬語になってしまうオウミではあったが、少女の返事はあっさりとしたものだった。 「行くわけないだろう?こっちは食事の準備とかで疲れているんだよ。」 少女はぶっきらぼうに答えた後、武器を担いだまま森の中に入っていく。 「ナコちゃん!……森の中は危ないって!!」 「どうせ出るのは森の動物と大差ない生き物じゃないか。 軽く揉んでやるには丁度いい、アンタ達も運動不足は良くないよ。 ついでに昼寝してくるから、帰りは夕方になると思う。」 ――この危険地帯で昼寝をしてくるとは一体どういう神経をしているのだろう。 碧とオウミはまずそう思ったが、これも口に出すのは止めておいた。 「……碧君、間違いなく『彼女』だと思うんだが……。」 オウミはぽつりと呟いた。 「……そうですよね。やっぱり僕は幻を見ていたのかもしれない……。」 少年もこの時ばかりは、自分が間違いであると考えざるを得なかった。 ★★ 暫くして、ナコは森の奥から出てきた。日はまだ高い。 どうせ『彼女』のことだから身の危険はないだろうと、皆もさして心配はしている風ではなかった。 そんな様子で洗濯物を干しているオウミに、ナコが近づく。 気配を感じたオウミは反射的に肩を震わせた。 「オウミさん、私も洗濯物干すの手伝おうか?」 にこやかに笑いかけるナコ。 その笑顔を見て、オウミはやっと今朝碧が言った意味を理解した。 ――完全に、別人じゃないか!! 全身の汗が引くのを身体で感じたオウミは、ナコの誘いを丁重に断って碧の所へ急ぐ。 「碧君!誰なんだあの少女は!?」 オウミにしては珍しく、息を荒げたまま碧の肩を揺さぶった。 本を読んでいた碧は、オウミが一通り落ち着くまで待って口を開く。 「だから言ったじゃないですか、別人のようだったと。」 「しかしあれは面影を欠片も感じない!まさか記憶喪失の類では……。 いや、今朝までは『彼女』だったんだ、意識を失っている内に元の人格が変わったとか……?」 顎に手をあて、オウミは真剣に考える。よほどの衝撃を受けたらしい。 「そうとも言えないと思うんですよね……。」 先ほどオウミに掴まれた腕をさすりながら、碧が呟く。 今でも痛みが残る、昨夜ナコに触れられた場所。 そう、何かが違うのだ。 ――あの時の彼女の瞳は、鮮血のように紅かったのだから。 ★★★ 一方、その頃―― 「くそっ!一体これはどうなっているんだ!?」 『ナコ』本人の意識を完全に堕としたと確信していたカスケードは、 少女の変わりようを目の当たりにして苦虫を噛み潰していた。 己の誤算より碧の躰を奪い損ねてから監視を続けていたものの、 今度は『彼女』の様子がおかしくなってしまった。 自分の知る『彼女』は、強く、気高く、そして孤高であった。 『ナコ』が復活したかどうかが問題なのではない、 あの少女が、『彼女』でなくなってしまった事が問題なのである。 これでは『ナコ』を堕とした意味がない。 「これも誤算、か……?俺は見誤っていたのか?」 木々の中に潜ませていた気配が、一瞬露わになる。 そのあまりの怒気に、森の住人たちは恐れをなして逃げていった。 「……いや違う。」 刹那の後、カスケードは冷静さを取り戻す。 そうだ考えろ。あの器に入っているのは二つの魂しかないはずだ。 「いいだろう。あの娘が足掻いているのなら、今度は完全に消してくれる。」 その言葉を残して、カスケードの気配は木々の闇に溶けていった。 To be continued... --------------------------------------------------------------------- 【予告】 帰ってきた少女。拭えない不安。二つの心に翻弄される人間達。 歪んだ魂は、綻びを埋めるため行動を起こす。 第七話 『二人』は第58回更新回の予定です。 PR |
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京都の伊勢丹でオウミ氏PLと2時間弱で作った、最強ツンデレ女王。
設定が腐女子ですが、PLはBLをあまり知りません。
よって、サブキャラ西宮碧とのツンデレが主なネタ。
まだまだナコ様は成長しきっていませんが、
どうぞ暖かい目で見てやってくださいませ。<(_ _)>