~False Dress Code・偽島迷作劇場 シンデレラ~
昔々あるところに、一人の可愛らしい女の子が住んでいました。
その家では家事は家族分担制だったのですが、
女の子は料理と灰かきしかしなかったのでシンデレラと呼ばれるようになりました。
そんなある日、国じゅうの者に王様からダンスパーティの招待状が届きました。
生活苦に喘いでいた姉達はこれ幸いと喜びます。
「良かった!今日はマトモな食事にありつけるね!」
「栄養補給ハとても重要テす。このチャンスを逃す手ハありません。」
感涙にむせぶ姉二人。
夕食を作り終えたシンデレラはその様子を見て口を開きました。
「……お継母様。アンタ様が行ってもみ劣りするだけだと思うけど?」
「いや、僕は一応、姉……」
姉の言葉を黙殺するシンデレラ。まぁ姉も当代きっての老け顔なので仕方ありません。
「シンデレラ、招待状は2枚しカないのテすよ。だから諦めて……」
「じゃあ私とあと一人ね。どっちが行っても変わり映えしないでしょうからさっさと決めなさいよ。」
どうやら自分は行く事が決定しているようです。
しかし、姉達としても自分のライフラインがかかっている以上譲るわけにはいきません。
シンデレラがもう今日の夕食を作り終えている以上、残った人間はもれなく残飯処理係です。
姉二人は相談した結果、
シンデレラがデザートに着手している間にドレスを持って舞踏会に行ってしまいました。
俗に言う夜逃げです。
「あいつら……抜けがけしやがったわね!!」
もぬけの殻の家の中、シンデレラは修羅の相で苦虫を噛み潰しました。
こんな事なら招待状を先に奪っておけばよかったと。
家じゅうの衣装を探しますが、生憎シンデレラの体に合うドレスはありません。
姉達はとても痩身だったのです。
シンデレラが怒りのあまり土台の切り株ごと薪を割っていた時に、
黒いローブで瓶底メガネといういかにも胡散臭い灰髪の青年に声をかけられました。
「怒るのはおよしなさいシンデレラ。地面にまで亀裂が入っていますよ。」
「……アンタ、何で私の名前知って……。」
「魔法使いですから。」
不敵に笑う男は、懐から瑠璃色の液体を取り出します。
「もし良ければこの新薬を試しもとい舞踏会に行ってみたいと思いませんか?」
「なんかさっき不吉な事言ったような気がするんだけど気のせいかしら?」
「気のせいです。この薬をふりまけば、ある一定時間姿を変えることができます。
例えばネズミが御者に、かぼちゃが馬車に、貴女のそのみすぼらしい服が煌びやかなドレスに!
ああ化学ってスバラシイっ。ククク。」
基本的に化学を取りちがえているような気がしますが、
シンデレラにとってこれ以上魅力的な条件はありませんでした。
短絡的なシンデレラは即断でその条件を飲むことにします。
まず自分に振りかけてみると、
みるみる間に姉が夜なべして作った服がドレスに変わるではありませんか。
「スゴーイ!格好だけ見たらめっちゃセンス悪いとか思っていたのに、
ちゃんとしたドレスになったじゃないっ!!」
「こういうイメージはある種固定で決まっていますからね。私の感性は関係ありません。」
シンデレラは家中の使えそうなものに薬をふりかけました。
とたんに、御者付きの豪奢な馬車が出来上がります。
「……制限時間は今宵12時まで。それ以上は薬の効果が切れますから、忘れないように。」
薬の効果を確認して、魔法使いはフラリと姿を消してしまいました。
シンデレラは意気揚揚と、舞踏会の開催する王様の城へと向かっていきました。
★★★
一方そのころ、舞踏会の主役である王子様は深く溜息をついていました。
国益のためと銘打って王が開いた大舞踏会ですが、裏を返せば王子の見合いパーティです。
いくらアラサー世代ど真ん中の王子といえど、ダシに使われて快いわけがありません。
人生の伴侶くらい、自分の目で吟味して決めたい。それが情というものです。
「親父の野郎、マジで決めるつもりなのか?俺にその気はないっつーの……。」
群がる貴婦人達を愛想笑いで交わしながら、王子はくせっ毛の強い黒髪をかきあげます。
王子は常に蒼い髪飾りを身に付けていました。そのことを改めて思い出します。
「……俺には、あのヒト以外……。」
胸にちくりと痛みがはしります。王子にはかつて、将来を誓った女性が居たのです。
それを知ってなお、見合いを企画した父親の魂胆が気に食わない。
王子がそんな事を考えていた時でした。
「申し上げます!城の入り口に不審な馬車を発見しました!!」
衛兵からの報告です。舞踏会が騒然としました。
「馬車?それは今日の客人ではないのか?」
「いいえ!招待状を持っていない上に、中に入れろと暴れておりますっ!!」
「報告の途中失礼致します!!不審者がもうすぐここに……うわぁ!!」
激しい轟音とともに、城の一部が破壊される音が王子の耳まで入りました。
そして王子の目の前に、その不審者が姿を表わしたのです。
★★
シンデレラはドレスについた埃をはたいた後、ようやく着いた舞踏会場を見まわしました。
「まったくどういう教育しているのかしら、人を見るなり不審者扱いなんて。」
「……シンデレラ、招待状を持っていない僕達は不審者になるんだよ……。」
御者は控え目に突っ込みましたが、勿論シンデレラが聞いているわけがありません。
壊したドアの隙間からずかずかと中に入っていきます。
「ちょっと待ってくれ。……君が不審者、なのか?」
驚いた王子が思わず声を洩らしました。
それもそのはず、シンデレラは見かけだけなら淑やかな少女なのです。
煌びやかなドレスを見に纏っている今、美しさは貴族の姫君にも引けを取りません。
「何よ?アンタまで私を――」
そう言いかけてシンデレラは相手を見、そして息を飲みました。
王子は大人の男特有の雰囲気漂う、まさに紳士でした。
育ちの良さにそぐわない武骨さも、その声色も、少女の好みでした。
シンデレラの脈拍数が急速に上がっていきます。こんな時どうすればいいのか、少女は知りません。
シンデレラがもじもじしたり俯いたりしているのを見た王子は、表情を緩めました。
「可愛い姫君、俺と踊ってくれませんか?」
差し出された王子の手をシンデレラはおそるおそる取りました。
そのまま引き寄せられるようにしてステップを踏みだします。
「……実を言うとな、こんなつまんねぇパーティ飽きてたんだ。壊してくれて、ありがとな。」
耳元でそう囁かれ、シンデレラはびくりと肩を振るわせました。
「なぜ、気乗りしないパーティに参加するんですか?」
たどたどしくシンデレラは言葉を紡ぎます。
「ああ、それはな――大人のくだらない見栄ってやつかな。ここに居る限り仕方ない。」
諦めたように吐いた王子の一言に、シンデレラは疑問を持ちます。
パーティに参加したくないなら、はじめからそう言えばいいのに。
大人の事情というものを理解するには、シンデレラはまだまだ人生経験が足りませんでした。
その時、城の時計台の鐘が鳴り響きました。12時です。
時計盤が12時を示しているのを見て、シンデレラは魔法使いの言葉を思い出します。
薬の有効期限は12時まで。流石にボロ服でここには居られません。
「王子様、一緒に逃げましょう!」
「は?」
「城から逃げるって言ってるの!貴方もこのしがらみから逃れたいのでしょう?
なんで嫌なものを嫌って言わないの!?自分の意見を言えないなんておかしいわよ!!」
矢継ぎ早に飛ぶシンデレラの言葉に圧倒される王子。
大人になり過ぎていた王子にとって、シンデレラの言うことは新鮮に感じられました。
「そうか、それもいいかもな。じゃ、一緒に逃げるか!」
「やっと笑った。やっぱり王子様は笑顔の方がステキです。」
「ほほぉ言ってくれるね、ま、ありがとな。」
王子はシンデレラに向かって屈託なく笑います。
「……っと、それより逃げる算段を考えないと。」
「大丈夫、私について来て!!」
そう言うと、シンデレラは王子の手を引き城の階段を駆け下りだしました。
ほどなくして、これは立派な拉致であると気づいた衛兵達が追いかけます。
「ああもう!こんな靴だと走れないじゃない!!邪魔なのよっ!!」
シンデレラは今まではいていたガラスの靴を脱ぎ捨てると、靴をそのまま追手に向けて投げつけました。
華奢な靴とはいえ、踵の尖った靴を剛速球で投げられればそれだけで凶器です。
素足のシンデレラと手を引かれた王子は階段を滑り下りると、一目散に出口へ向かいました。
勿論その間にも兵隊は道を塞ぎますが、シンデレラの100連撃の前に成すすべもありません。
そうこうしている間に、まんまとシンデレラ達は城を抜け出しました。
この後、シンデレラと王子様が捕まったという話は聞きません。
代わりに、身元がバレた姉達が投獄されてしまいましたとさ。
めでたしめでたし。(?)
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このたび日記を書くにあたり、
病宮 魅闇(168)様
レンジィ=ア=イーオ(176)様
ジェラルド=ハーミット(1259)様
オウミ=イタドリ(1917)様
をお借りしました。ありがとうございます!
【False Dress Code】参加中!!
レンジィ=ア=イーオ(176)様と共作させて頂きました。浪漫溢れるシンデレラも併せてご覧くださいませ。